A:賢人の助言者 ストラス
「ストラス」の討伐を依頼してきたのは、驚くなかれ、北洋在住のシャーレアン人の占星術師さ。彼は、フクロウに魔法をかけて使い魔にしてたそうだが、どんな偶然が作用したのか、天才的な頭脳を獲得したそうでね。主に占星術の助言さえしていたそうだよ。ところが、15年前の「大撤収」の際に、主が持つ禁書を奪い、逃げ出しちまったそうだ。禁断の知識を手にした使い魔を駆除しろってことだね。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「参りました、私の負けです」
ストラスと呼ばれる大きな梟は右の翼で器用に持っていた杖を地面に放り出し、驚くほど流暢な人間の言葉で言った。どこから見ても鳥類の風体なのに一体どんな声帯になっているのだろう。
「いやはや、金目当ての冒険者風情には負けない自信があったんですが。侮っていた私の負けです」
そういえばバヌバヌ族も鳥類の風体だったが言葉を話していたなと妙な納得をしながらあたしは言った。
「随分と潔いのね?」
あたしは大きな梟に向けていた杖を下ろした。
「見ての通り私も老齢だし、それなりに研鑽してきたつもりです。力の差が分からない程愚かではありませんよ。しかし、貴方がた程の方があの人の手駒になるとは…」
どうやらストラスは自分がクラン・セントリオからAクラスのリスキーモブに指定され多方面から狙われている状況を知らないようだった。あたしはそれを説明した。
「なるほど…そう来ましたか」
ストラスは腕を組むように翼を交差させ、右翼で考えるように嘴の下を撫でた。
「どういうこと?」
何が言いたいのかさっぱり分からずあたしはストラトに聞いた。
「これはね、口封じなんですよ」
ストラスは丸い目であたしを見て言った。
「私が持ち出した禁断の書?そんなものありはしません。……いや、ある意味これは禁断の書かも知れませんね」
そういうとストラスはなめした皮表紙の書物を取り出すとあたしの前にドサッと投げて寄越した。
相方が屈んでそれを手に取り開くとパラパラと数ページ目を通した。
「きもっ」
「え?」
相方は短く言い捨てると顔を顰めて勢いよく本を閉じて汚い物でも目の前から退けるような仕草で受け取れと目配せした。
「何?どうしたのよ?」
あたしは本を受け取ると相方がしたのと同じように数ページペラペラと目を通した。
「きもっ」
あたしも思わず声を上げて本を投げ捨てた。
大梟は笑い声っぽい声を上げながら言った。
「これは我が主である、その昔一世を風靡し名をエオルゼアに轟かせた占星術師の性癖日記です。それだけではなくなぜ彼が何故有名占星術師になれたかの秘密も書かれています」
そういうとまた器用に翼を使い本を拾い上げると、埃を払うようにポンポンと叩いて言った。
「これが禁断の書の正体です。使い魔がポンコツな主から逃れるには主の弱みを握るしかないのです」
ストラスはそう言った。
ストラスは一昔前にその的中率から絶大な人気を博した占い専門占星術師の使い魔だ。
通常、使い魔がその主以上の能力を持つ事はないし、考えにくい。だが稀にその個体の潜在能力などのイレギュラー要素の影響で主以上の能力を持つようになる使い魔がいる。ストラスがまさに顕著な例だった。その有名占星術師の占いが絶大な的中率を誇ったのは全て天才使い魔であるストラスが代わりに占っていたからだった。ストラスが手柄を横取りし、賞賛や名声に酔う主の姿に嫌気が差すのもよく分かる。そしてストラスはシャーレアン大撤収の混乱に紛れ姿をくらました、主の弱みを握って。
「引退したあの人も今や占星術界の大御所ですからね。この禁断の書が世に出ると色々と困るのですよ。だから私もろとも亡きものにしようと考えたのでしょう。真っ当になってくれればと一縷の希望は抱いていたのですが、...いやはや、浅薄なあの人らしい」
ストラスは少しだけ落胆した様子で言った。
禁断の書と聞いて失われた古代魔法を連想していたあたしも落胆の色が隠せなかった。